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神戸地方裁判所 昭和61年(ワ)779号 判決 1987年11月17日

原告

甲野直臣

右訴訟代理人弁護士

池上治

被告

乙川花子

右訴訟代理人弁護士

小山孝徳

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金六〇〇万円及びこれに対する昭和五四年三月一三日から同五五年三月三一日まで年一割五分の、同年四月一日から支払ずみまで年三割の、各割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五四年三月一三日、訴外乙川武裕(以下「武裕」という。)に対し、金六〇〇万円を、弁済期昭和五五年三月三一日、利息年一割五分、遅延損害金年三割と定めて貸付けた。(以下「本件貸金」という。)。

2  武裕は昭和五四年四月四日死亡し、同人の母で相続人の被告が相続により同人の権利義務を承継した。

3  よつて、原告は、被告に対し、本件貸金六〇〇万円と、これに対する昭和五四年三月一三日から同五五年三月三一日まで約定の年一割五分の割合による利息及び同年四月一日から支払ずみまで約定の年三割の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は知らない。

2  同2の事実のうち、武裕が昭和五四年四月四日に死亡したこと、被告が同人の相続人であることは認めるが、被告が同人の権利義務を相続により承継したことは争う。

三  抗弁

1  被告は神戸家庭裁判所に相続放棄の申述をし、昭和六一年七月一七日右申述を受理された。

2  被告の右相続放棄の申述は、自己のため相続の開始があつたことを知つた時から三カ月以内のいわゆる熟慮期間中になされているので、相続放棄は有効である。すなわち、

(一) 被告は、原告の本訴請求の提起まで武裕の本件貸金債務の存在を全く知らなかつた。

(二) もともと被告は、武裕の第二順位の相続人であるところ第一順位の相続人である武裕の子の丙山一郎は、昭和五四年八月三日神戸家庭裁判所伊丹支部において相続放棄の申述が受理されているが、被告は一郎が右相続放棄をしていることは全く知らなかつた。

(三) 右のとおり、被告は、本訴請求の提起まで本件貸金債務の存在を知らなかつただけでなく、自らが武裕の相続人となつていることも知らず、相続開始の原因となる事実を知ることがなかつたのである。本訴請求の提起によりこれを知つたので、熟慮期間内に相続放棄の申述をしたものである。

3  被告は、原告主張の相続の単純承認をしていないので、相続放棄は有効である。

(一) 原告主張の後記四の3の(一)の事実中、本件土地につき原告主張の各登記がなされていることはそのとおりであるが、これが武裕の相続財産の処分にあたることは争う。

本件土地は武裕の相続財産ではないし、本件土地につきなされた登記は相続財産の処分にはあたらない。

武裕は生前不動産仲介業をしていたが、昭和四八年中、杉浦鼓ら所有の本件(一)の土地ほか四筆の土地につき、大日本土木株式会社と杉浦ら間の売買契約を仲介するとともに、その際ついでに武裕所有の本件(二)の土地をも大日本土木に売渡した。しかし、大日本土木は、買受けた本件土地につき、農地法の関係上直ちに自らのため所有権移転登記ができなかつたので、仮登記をするにとどめ、権利確保のため、便宜上武裕名義の所有権移転登記を経由し、武裕から本件土地につき同人には全く権利がない旨の誓約書を差入れさせていた。ところで武裕の死亡後、大日本土木は被告に対し武裕差入れの誓約書を示し、本件土地につき自らへの所有権移転登記を要求してきた。被告は、当時高齢で判断力もなかつたので、被告の長女西本和子が右要求を受けとめ、事情はわからなかつたが、本件土地は武裕において処分ずみの土地であるとのことから、大日本土木の指示のままに、登記に必要な書類ということで、書類に被告名を記入し被告の印鑑を押捺してこれを大日本土木に交付した。原告主張の登記は大日本土木の側でなされたものであり、被告は、本件土地を株式会社シンコーや藤原静昭に売買したことはなく、武裕の相続財産を処分したことには当らない。

(二) 原告主張の後記四の3(二)の事実は争う。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は認める。

2  被告の相続放棄の申述は、次のとおり熟慮期間内になされていないから相続放棄は無効である。

(一) 被告は、武裕の死亡直後より原告から被告の長女西本和子を通じ本件貸金の弁済を請求されていたので、被告自身武裕の原告に対する本件貸金債務の存在を知つていた。

(二) もつとも武裕の第一順位の相続人は、同人の子の丙山一郎であるが、同人は昭和五四年八月三日相続放棄の申述が受理された。被告はその頃に自らが武裕の相続人であることを知つたのであるから、その時から熟慮期間が起算される。

(三) 仮に右の熟慮期間の起算日の主張が認められないとしても、被告は、武裕所有の別紙物件目録(一)、(二)記載の土地(以下、一括するときは「本件土地」といい、個別するときは「本件(一)の土地」、「本件(二)の土地」という。)につき、昭和五九年一〇月九日付で相続による所有権取得登記をしているところ、右登記は被告自らが武裕の相続人であることを認識し、外部に表示しているのであるから、右相続登記の日から熟慮期間が起算される。

(四) 被告は右熟慮期間の起算日から三カ月以内に相続放棄の申述をしていないから単純承認したものとみなされ、それ以後になされた相続放棄は無効である。

3  被告は、相続放棄の申述に先立ち、次のとおり相続の単純承認をしたので、被告の相続放棄は無効である。

(一) 被告は、武裕が所有する本件土地につき昭和五九年一〇月九日付で相続による所有権取得登記をなしたうえ、さらに同年一二月一四日訴外株式会社シンコーとの間で本件(一)の土地の売買契約を締結し、同会社のため同月一七日付で条件付所有権移転仮登記がなされている。また同年一二月一七日訴外藤原静昭との間で本件(二)の土地の売買契約を締結し、同人のため同月二〇日付で所有権移転登記がなされている。

右の本件(一)、(二)の土地の売買は、被告による武裕の相続財産の処分であるから、被告は相続の単純承認をしたとみなされる。

(二) 武裕は、その居住地の北僧尾部落が有する部落有林につき、売却されて売却代金が部落民に分配される場合、同部落に対し右分配金請求権を有していたところ、同部落は部落有林を売却したことに伴ない、昭和六一年七月上旬頃同部落から被告に対し、八二三万三七七三円が分配された。被告が右分配金を取得できたのは、相続により武裕の部落に対する分配請求権を承継したからにほかならない。そして被告は右分配金を取得したあと、うち五〇一万七一一五円を費消してしまつた。分配金は武裕の相続財産であるから、被告がこれを取得し費消したのは、相続財産の処分又は消費に当り被告は相続の単純承認をしたとみなされる。

第三  証拠<省略>

理由

一<証拠>によれば、請求原因1の事実を認めることができ、右認定を覆すに足る証拠はない。

二武裕が昭和五四年四月四日死亡したこと、被告が同人の相続人であることは当事者間に争いがない。

そこで被告の抗弁につき判断する。

被告が神戸家庭裁判所に相続放棄の申述をなし、昭和六一年七月一七日右申述を受理されたことは当事者間に争いがないところ、原告は、被告の相続放棄は熟慮期間内になされたものではないし、また被告は相続放棄の申述に先立ち武裕の相続財産を処分・費消し、単純承認をしているので、被告の相続放棄は無効であると主張するので検討する。

1  <証拠>によれば、次の事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

(一)  武裕は妻芳子との間で長男一郎(昭和四六年一二月二九日生れ)を儲けていたが、同女と昭和五〇年一二月二七日協議離婚し、同女は武裕と別居したので、その後は被告(明治三六年二月二六日生れ)が武裕及び一郎と同居してきた。被告は、昭和五〇年ころから老人性痴呆症の症状を呈するようになり、武裕が死亡した昭和五四年四月四日以後はますますその症状が悪化し、一人暮しで世話する人もいないので現在は病院に入院している。

(二)  武裕が死亡したあと、法要を営んでいたときに、原告が被告方居宅を訪れ、応待に出た被告の長女丁本和子の夫の愿や武裕の弟晶裕らに本件貸金のあることを告げ、その弁済を要求したことがあつたが、同人らは被告方では支払能力もないし、そのような要求には応じ難い旨答えていた。和子は武裕の死後一人暮しとなつた被告の面倒を主としてみるようになつたものであるが、夫の愿から聞いて原告の武裕に対する本件貸金の存在を知るにいたつたものの、被告は老齢でもあるし、理解力に乏しい状況であつたので、原告の申し出た本件貸金のことを被告に知らせなかつたし、他方原告自身は本件貸金のことで被告と話し合つたことはなく、その後も被告に対して本件貸金の弁済方を請求することはないまま過ぎた。

(三)  一方、武裕の長男一郎は、武裕の死後直ちに母の芳子が自らの手許に引取り、その後しばらくの間、一郎はたまに被告方を訪れることはあつたものの、被告や叔母和子らとの間の交際は次第に縁遠くなり、殆ど没交渉といつた状態になつた。

一郎は武裕の第一順位の相続人であり、被告は第二順位の相続人であるが(この点は当事者間に争いがない。)、一郎は神戸家庭裁判所伊丹支部に武裕の相続につき相続放棄の申述をなし、同裁判所において昭和五四年八月三日右申述が受理されたが、一郎が相続放棄をしたことは、誰からも被告に告知されることはなく、被告はもとより和子らにおいても全然知らないで過ぎていたところ、原告は本訴請求を提起し、武裕の第一順位の相続人の一郎において相続を放棄しているので、第二順位の相続人の被告に対して本件貸金の支払を請求すると主張するところから、一郎の相続放棄を知るにいたつた。

(四)  ところで、武裕は生前不動産仲介の仕事をしていたことがあり、大日本土木のために、杉浦鼓ら所有の本件(一)の土地ほか四筆の土地の売買を仲介し、大日本土木が杉浦らから右土地を買受けた。その際武裕は、ついでに自らが所有する本件(二)の土地(この土地は、もともと武裕の父淳一の所有で武裕が相続したものであるところ、武裕は自らの借金の担保として藤原完正に右土地を提供し、同人のため所有権移転登記を経由していたが、同人に借金を弁済したので、自らに所有権を回復したものの、登記名義は依然藤原完正名義のままにしていた。)をも大日本土木に売却した。しかるに、本件(一)、(二)の土地は農地(田)であつたので、大日本土木は、農地法の関係上直ちに自らのために所有権の譲渡を受けその旨の登記をなしえなかつたところから、ひとまず本件(一)の土地につき、昭和四八年三月一三日付で停止条件付所有権移転仮登記(原因同月二日停止条件付売買)を、また本件(二)の土地につき、同年五月二九日付で所有権移転請求権仮登記(原因同月二日売買予約)を経由した。そのうえで大日本土木は、買受けた本件土地につき、自ら便宜のため、農地法上権利取得資格のある武裕をして、本件土地の所有名義者から所有権移転を受けさせ、昭和四九年一二月六日付で武裕名義の所有権移転登記を経由した。そして武裕は、本件土地の売買に関与した阪神商事株式会社代表取締役小西範雄の立会のもと、大日本土木に対し、本件土地は大日本土木と前地主との間で完全な売買が完了していること、武裕名義の登記は単なる事務手続上の簡略化をはかるためであるから、本件土地について武裕は一切の権利を有することなく、以後の権利の移動等は大日本土木の指示に従う旨の昭和四九年一二月二日付誓約書を差入れていた。

(五)  しかるうち、武裕死亡後の昭和五九年五月頃にいたり、小西は、一旦被告方を訪れたものの、当時被告は老人性痴呆症が進み、話合いもできなくなつていたところから、被告の面倒を見ていた丁本和子に会い、同人に大日本土木に差入れた武裕の誓約書を示し、本件土地は武裕名義となつているものの、大日本土木が買受けたものであること、そこで大日本土木に登記ができるように協力してくれと要請した。和子は、武裕の生前中同人から本件土地売買の経緯を聞いていたわけではなく、事情がよくわからなかつたものの、小西から武裕自筆の前記誓約書を示され、同人の話しは信用できると思い、大日本土木に登記ができるよう協力することにし、このことを被告に告げても被告の理解できるところではないので、和子一存で被告の印鑑を取り出し、小西が提示した本件土地につき武裕から大日本土木に所有権移転登記ができるのに必要な書類に、必要とされる被告の氏名を記入し、その名下に被告の印鑑を押捺したうえ、右書類を小西に交付した。

(六)  右の経過で大日本土木は、小西を通じ、本件土地につき武裕から大日本土木に所有権移転登記ができるに必要な書類を、被告の協力を得て取得したのであるが、本件土地につき、昭和五九年一〇月九日付で武裕から被告に相続による所有権移転登記を経由したうえ、本件土地を大日本土木の子会社に当る株式会社シンコーに売渡した。そして本件(一)の土地につき、同年一二月一七日付で株式会社シンコーのため条件付所有権移転仮登記がなされ、また本件(二)の土地については、以前から藤原静昭が耕作していたところから、株式会社シンコーは、本件(二)の土地を同年一二月一八日藤原に代金一八〇万円で売買し、同月二〇日付で藤原のため所有権移転登記が経由された。(本件土地につき、被告の相続による所有権移転登記及び株式会社シンコー、藤原静昭のために右の各登記がなされていることは当事者間に争いがない。)

従つて、本件土地につき、被告名義の相続による所有権移転登記はなされているものの、そのうえで被告自身が株式会社シンコーに本件(一)の土地を、藤原静昭に本件(二)の土地を、それぞれ売買したわけのものではない。

(七)  原告の本訴請求の提起後になるが、昭和六一年七月上旬頃、被告居住地の北僧尾部落において、部落総有林をゴルフ場用地として他に売却したということで、同部落から被告に八四戸均等配分の配分金として八二三万三七七三円が配分された。

2 ところで、民法九一五条一項によると、相続人は自己のため相続の開始があつたことを知つた時から三箇月以内に放棄をしなければならないと定められているところ、右の「自己のために相続の開始があつたことを知つた時」とは、相続人において相続開始の原因となる事実及びこれにより自己が法律上相続人となつた事実を知つた時と解される。そこで前記認定の事実によれば、被告は武裕の母であるが、武裕には子の一郎がいて同人が武裕の第一順位の相続人であり、被告は武裕の第二順位の相続人でしかないところ、被告は、武裕が死亡した事実は知つていたものの、第一順位の相続人の一郎において相続放棄の申述をなし昭和五四年八月三日右申述が受理されたこと、そこで一郎の相続放棄により被告が武裕の相続人となつたことを知る機会がなく、知らないままに過ぎ、原告の本訴請求の提起により(本件訴訟の記録によれば、本件訴状の被告に送達された日は昭和六一年五月二七日であることが明らかである。)、始めて一郎の相続放棄を知り、そこで被告自身が武裕の相続人となつたことを知つたものと認めるのが相当である。(原告は、一郎の相続放棄の申述が受理された昭和五四年八月三日当時、被告は自らが武裕の相続人であることを知つたと主張するが、右主張事実を認めるに足る証拠はない。)

そうとすると、被告は、原告の本訴請求の提起により本件訴状が被告に送達された日の昭和六一年五月二七日に、自らが武裕の相続人となつた事実を知つたものというべきであるから、この時から相続の放棄のための熟慮期間が進行するものといわなければならない。

原告は、右熟慮期間は被告が本件土地につき相続による所有権取得登記を経由した昭和五九年一〇月九日から進行すると主張する。なるほど、本件土地につき昭和五九年一〇月九日付で被告のため相続による所有権移転登記が経由されていることは前記のとおりであるが、前記認定の事実によれば、右登記がなされるにいたつた事情は、大日本土木から被告に対し、本件土地は大日本土木において買受けて所有するが、便宜上武裕名義で登記がなされているので、武裕から大日本土木に所有権移転登記をするために被告の協力を要請され、被告において右要請を受け入れて大日本土木の指示に従い右登記手続に必要な書類を交付したところ、大日本土木によつて右各登記がなされるにいたつたものであり、その際被告自身は武裕の相続人となつた事実を覚知したうえで右登記を経由したものではないと認めるのが相当である。従つて、本件土地につき被告が相続による所有権移転登記を経由したことをもつて、被告において武裕の相続人となつた事実を覚知していたということはできない。してみると、被告が右登記を経由した日から熟慮期間が進行するとの原告主張は理由がなく採りえない。

そこで、昭和六一年七月一七日神戸家庭裁判所において受理された被告の本件相続放棄の申述は、民法九一五条一項に定める期間内になされたものというべきである。

3  さらに、被告は右相続放棄の申述に先立ち武裕の相続財産を処分・費消し、単純承認をしているとの原告主張を考えるに、なるほど、本件土地につき、被告のため相続による所有権移転登記がなされ、次いで、本件(一)の土地につき株式会社シンコーのため条件付所有権移転仮登記が、また本件(二)の土地につき藤原静昭のため所有権移転登記が経由されていることは、前記のとおりである。しかしながら前記認定の事実によると、本件土地につき一旦武裕名義の所有権移転登記がなされているが、本件(一)の土地は、武裕の仲介により、その所有者の杉浦鼓らから大日本土木に売買されたものであり、また本件(二)の土地は、武裕から大日本土木に売買されているものであつて、本件土地についての前記の各登記は、相続人としての被告が被相続人である武裕の大日本土木に対する本件土地の売買による所有権移転登記義務なる債務を、その本来の内容に従つて履行したにとどまる。従つて本件土地について被告のした前記の各登記は、武裕の相続財産の処分にはあたらない。

次に被告居住地の北僧尾部落の部落総有林の売却による同部落から被告に対して配分された分配金は、北僧尾部落が部落総有林を他に売却した結果、同部落居住の被告方を含む八四戸の各戸に右売却代金を均等配分したところの分配金であつて、もとより部落総有林は武裕の所有ではなく、北僧尾部落において独自に処分できるものであり、元来右分配金は同部落から武裕個人が配分を受けうることになつていたものではないから、被告に配分された分配金は武裕の相続財産には属しない。従つて、たとえ被告において右分配金を費消したからといつて、武裕の相続財産を私に消費したということはできない。

右の次第で、被告が相続放棄の申述に先立ち武裕の相続財産を処分・費消し、単純承認をしているとの原告主張は、前提の事実を欠いているので理由がない。

4  そうすると、被告の相続放棄の申述及び神戸家庭裁判所の右申述受理はいずれも有効適法であり、被告は民法九三九条により当初から武裕の相続人とならなかつたものとみなされ従つて被告は武裕の原告に対する本件貸金債務を相続により承継することはなく、原告に対し本件貸金を支払べき義務はない。

三以上の次第で、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官坂詰幸次郎)

別紙物件目録(一)、(二)<省略>

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